カンニングは叱ってもらえない|中学受験のためのアルファ理科実験教室

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【2013/6/20】

ほとんどの保護者が、自分の子に限っては関係ないと思っている「カンニング」。


具体的な数字はないものの、私の過去の経験からの肌感覚では、
日常的にカンニングを行っている子は全体の2割
問題が難しかったり、宿題が多かったりする時に一時的に答えを見てしまう子達は4割くらいいるのではないかと思います。


今回、私がここで取り上げる「カンニング」とは以下の3つです。
@.テストで隣の子の答案を写す
A.自宅学習で、解答を見ながら正解を書きこむ。
B.解説ページを見ながら問題を解き、それに丸印をつける。
いずれも、自分の実力を底上げして答案に反映させる点が共通点です。

@は論外ですが、子供達も悪いと感じるようですし、塾もテストの受け方を工夫したりしていますので、さすがにあまり多くは見かけません。
しかしAとなると、やっている子はかなり多く、そもそもそれが悪いことだという認識すら無かったりする子も多いようです。これの常習犯は@もやってしまいやすくなります。Bは家庭によって意見が分かれるかもしれません。分からない問題を調べるのは良いのですが、そこで導き出した答えに○印をつけた時点で実力以上の○がつくことになります。


大人の感覚ではカンニングは泥棒にも匹敵する卑劣で恥ずかしい行為で、
京大入試でのカンニングは世間の注目を浴びました。
しかし、小学生くらいの子供達の中には、 答えを見ながら宿題をやることが
大きな問題だとは思っていない子が案外多いのです。


そもそも小学1年生くらいの子達は「人の答えを見て何が悪いの?」という
意識状態で、平然と隣の子の解答をのぞきこんだりします。
ですから、中学年・高学年になっても、その感覚が抜け切れていない子も
一定数いても不思議ではないのかもしれません。




ところで、多くの保護者は
「塾はプロなのだから、カンニングを見かけたら、厳しく叱ってくれるはず。
その時は保護者にも連絡がくるはず。」

と当然のように思っていることでしょう。

しかしこれは大きな誤解で、おそらく多くの塾ではテスト中にカンニングを見つけても、叱ったりしません。 それどころか 、
「テスト中に不正行為を見つけても、「カンニングするな」と声をかけてはいけない」
とわざわざ試験監督員に指示が出されている塾もあります。


なぜでしょうか?


その理由を説明する前に、人間本来が持っている「返報性」という特徴を理解しておく必要があります。
返報性とは、ある人から好意的なことをされたり言われたりすると、こちらもその人に対して好意的な行動をとることが多い、という人間本来の性質です。人間は社会的動物ですから「何かをもらったら、相応のお返しをする」ことが、脳の基本OS部分にインストールされています。狩猟時代には、食べ物に困って誰かにもらったりすると、いつかそのお返しをしなければいけないという、自然な欲求が出てきます。その行為が集団社会生活を営む上で大切な潤滑油になっていたことでしょう。
これは悪い方向にもはたらき、ある人に嫌なことを言われたり意地悪されたりすると、こちらも自然にその人を憎く感じたり意地悪したくなります。

カンニングを指摘されることは、本人にとってはこの上ない屈辱です。「先生に嫌われた」と感じる子も多いかもしれません。すると、子供も返報性によって相手(先生)を嫌いになり、いつか自分が受けた屈辱を返したいと無意識のうちに感じてしまいます。
一方、子供の保護者も「カンニングを疑われた」ことは、「先生は自分の子を信頼してくれない」と感じるかもしれません。そうなったら、返報性によって保護者も塾や先生を信じることができなくなってきます。

理性的に考えると、カンニングの指摘はその子の将来を思って行う、むしろ好意によるものです。しかしそういった長期視点を理性で考えるよりも、「先生に嫌われた」「屈辱を受けた」「信頼されていない」という本能に近い部分の感情が先に出てしまいます。そして無意識のうちに相手を嫌いになったり、相手を信頼できなくなってしまう。これは人間の原始的本能に近い部分の基本的な感情なので、理性で抑えるのは難しいのです。

このようにカンニングを指摘すると、教える・教わるの信頼関係や好意が崩れていくことが多いのです。

もしこれが学校の義務教育であれば、嫌な相手でもお互い逃げることができない上、そもそも相手のことを思った指摘なので、理性的になるまで時間をかけて信頼を再構築していくことも可能でしょう。
しかし中学受験塾は、すぐ近くにいくらでも別の塾があり、簡単に転塾することができる環境です。不正行為を指摘することにより、好意が仇となり、退塾に直結する事態となりかねないのです。

塾側からみると、不正行為を注意することで得られるもの(長期的に見た子供の成績)に比べて、失うもの(信頼と指導機会)が極めて大きく、全く釣り合っていません。そのため疑いがかなり強くても、他の人に迷惑をかけない限り、カンニングが指摘されることは滅多にないのです。

そもそもカンニングの被害者は不正行為をした本人なので、大きなリスクを負ってまで叱りつける必要は無く、それは本人の責任だ、と先生側も考えていたりします。
それが周囲の子に悪影響を与える時に限り、「しっかり前を向きましょう」といったり、他の子から気づかれない程度に机の端をちょんちょんとたたく、それくらいが関の山なのです。


これをお読みになっている方の中で、お子様が塾の先生にカンニング行為をひどく叱られた経験がある方はいらっしゃるでしょうか。
その場合、先生は子供の将来を真剣に思い、生徒が辞めてしまう覚悟をもって、身を切るような思いで叱っているはずです。
とても信頼できる先生です。

ちなみに、入試本番でカンニングした場合は、その時には何も言われません。そのまま試験を受けさせ、監督員が印をつけておいて、合格発表で不合格を出すだけです。







恥を忍んで書くと、実は昨年、個別指導をした子もまた、自宅で四科のまとめを実施する時に解答をチラチラ写していたのです。自分の力以上の正答率だとは感づいてはいたものの、決定的な証拠をつかむまでは、やはり私も動けませんでした。もしカンニングが誤解だったら、その家族との信頼関係は、一生取り返しのつかないことになるだろうと思ったからです。

しかし何日たってもそれはおさまることがなく、それどころか徐々にエスカレートしてきました。ある日、私は母親の目の前で「確認テスト」を実施しました。当然、その子は家では解けていた問題を解くことができません。「なぜ今これしか解けないのに、家ではこんなに正答率が高いと思いますか?」と母親に問いました。母親はすぐに悟り、泣いていました。

それを告げた時は「もう指導を受けるのはやめます」と言われても仕方ないだろうなと思っていました。しかしその親子は翌日、「心を改めて1から頑張り直します。どうかご指導お願いします。」と言ってきました。その後は本当に自分の力で頑張って、偏差値10以上高めて、きっちり志望校に合格していきました。




  中学受験は子供にとってとても大きな負荷のかかる学習です。全体正答率が6割になるよう作られているテスト問題なら、中・下位層の子達は20点とか30点といった得点になることも多く、自分が漫画のノビタ君やカツオのような状態になり、自尊心もズタズタにされてしまいます。多くの子にとっては大過剰ともいえる宿題も出され、寝る時間も遅くなり、見たいテレビも見られない。そんなプレッシャーの中でついつい巻末の解答に目が行ってしまい、楽してしまう子が一定数います。

一度答えを見て楽を覚えると、それは必ず繰り返されます。自分の成長の可能性でもある誤答を誤魔化すのですから、当然成績は下降していきます。だから早めに見つけてあげて、そのやり方は間違っているのだと教えてあげる必要があるでしょう。
でもそこは、塾の先生は指摘してくれません。
保護者自身が見つけてあげないといけない部分なのです。
 

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