まさき君は、私が半年間、個別指導で見てきた子です。
6月時点でのYT偏差値は40くらい。
学力的には、いわゆる底辺クラスの子でした。
まさき君にとって問題とは「知っている」か「知っていない」かであり、
答えを「知らない」時は「それらしいもの」を勘で反射的に答えていました。
計算問題とは、問題文中の数字を「足す」「引く」「かける」「割る」のいずれかで計算するものだという認識でした。
ですから、問題文に数字が3つ以上出てきたり、式を2段階に分けて考える必要があるような問題はお手上げでした。
「運良く」計算式が合っていた時も、その後の計算をかなりの確率で間違い、正解にたどり着くことはまれでした。
そんなまさき君ですが、決してふざけたり、手を抜いたりしている訳ではありません。
本人はいたってまじめで、「勘で」「反射的に」答えを選ぶのが、問題の正しい解き方だと本気で思っていたのです。
例えば、真夜中の上弦の月の位置は?と問われた解き、知らないので「南」と即答します。テレビの早押しクイズレベルの反射スピードです。正解が「西」だとわかっても「あ、外れた。西なのか。残念。」で終わっていました。
「なぜ、その月が西にあるのか?」それが問われていることに気付いていなかったのです。
6月時点で、まさき君は四谷大塚の予習ナビという映像授業で学習していたのですが、仮に塾の対面授業に変えても、単なる「お客さん」として扱われ、まともな受験はできないと思いました。予習ナビをやめて全教科個別指導にして、理科は私が見ることにしました。その中で「勉強とは何か」「問題とは何か」を伝えることにしました。
まず始めに修正しなければいけなかったことは、まさき君の問題に対する認識です。
問題文はロジックでできていて、解は論理的に導き出されるものであるということ。
問題と答えの間には因果関係があること。
「それらしいもの」を直感で選んではいけない、ということです。
「正解には理由がある」と知った時、まさき君は素直に驚いていました。
同時に私は、彼がこれまで12年間もの間、誰からも「正解に根拠がある」ことを教わってこなかったことに、憤りすら感じました。
その後、
彼が答えを選ぶたびに、正誤にかかわらず
「その答えを選んだ理由は?」としつこく問い続けました。
問題文の意味をつかむためには、やはりある程度の基礎知識を入れなければいけません。そのため、四科のまとめ(四谷大塚の復習教材)を繰り返しやってもらいました。
てこ・電流・天体・地層・化学反応・水溶液・・・どの分野も、驚くほど、
全く解き方が分かっていませんでした。
今まで何をやってきたのか。。。勉強とクイズの境目が見えていなかったのでしょう。
全てを基礎から教える必要がありました。
救いだったのは、彼がサボるズルするということを全くしなかったこと。いつも本気で向かってきたこと。そして記憶力が標準よりはやや良かったことです。
四科のまとめを繰り返すことで、理科問題を読むための「共通言語」のようなものが身につきました。
四科のまとめは10月後半で完成しました(←知識系を全部覚えたというレベル)。ここまでずっとひたすら、四科のまとめ。6回くらいやったでしょうか。
11月になろうかという頃、いよいよ過去問演習に入ります。
まさき君の志望校は、市川と獨協埼玉とかえつ有明。
もっとも市川には逆立ちしても届かないということを(保護者に)事前に伝えていましたので、そこは対策をせず、他の2校は古い過去問まで買えるだけ買って、可能な限りトライし続けました。
過去問は四科のまとめで身につけた知識系の問題は解けても、
それ以外は道すじが見えませんでした。
しかし、間違った問題1つ1つに向き合っていくうちに、
「身につけた知識を使って考える」ことができるようになってきました。
それまで反射だけで解いてきたまさき君が変わってきていました。
さらに数をこなすうちに「解説を読んで理解する」ことが徐々にできるようになってきました。
私の過去問授業では、事前に問題を解いて採点して、×だった問題を
1.解説を読んだら分かった
2.解説を読んでも分からなかった
に、分けてもらいます。注意深く解説を読む癖をつけることで、問題文の論理構造が読みとれるようになってきたのです。
12月の合不合では理科の偏差値は56に達しました。(4月は43でした)
そして迎えた1月。まずは1/12獨協埼玉。
結果は合格でした。
「よし、この波に乗ってあと20日間頑張ろう」
と思った矢先、彼の心がゆらぎました。
「獨協埼玉進学で決定して、ここで受験終了したい。」
まさき君のお父様も、そして他教科の個別の先生も、
もうこれで満足だ、という判断になっていたようです。
しかし私はそれは良くないことであると感じました。
「これまで志望校に向けて勉強してきたのに、1つ合格したから勉強を中止してしまうというのは、まさき君の先々にとって悪い例を作ることになります。2月1日までは頑張って、獨協埼玉とかえつ両方受かってから、どちらに行くか考えましょう。」
と私の考えを伝えました。
保護者もこれに納得していただき、本人も迷いが吹っ切れた様子でした。
いよいよ2月。
かえつ有明は、普通コースと特待コースがあります。
2/1普通コースに合格しました。
2/2特待狙いで再び受験しましたが、不合格でした。
2/3三度受験をするも、やはり不合格でした。
市川は、2度受験しましたが、やはり不合格でした。
まさき君12歳。2つの合格は得ましたが、市川とかえつ特待は届かず、5回の不合格通知を受けました。自分の限界も突きつけられました。
家族会議で悩み抜いた末、かえつ有明に進学することに決めました。
進学先だけを考えると、私が個別で見ても見なくても、
ひょっとしたら同じ結果になったかもしれません。
しかし、この指導の中で、まさき君は大きく3つのことを身につけてきました。
「問題とは、問題文から解への因果関係を紐解く作業であること」
「一度間違えた問題を、できるようにするための手順」
「自分が分かる問題と、分からない問題の見分け方」
きっとこれは、集団授業ではなかなか教わることができない内容であり、
まさき君の今後の学習に大きく役立つものと考えています。
さらに、まさき君は理科に関しては、
進学先かえつ有明でもトップクラスの実力を持っているはずです。
6月、ほぼゼロの状態からここまで仕上げました。
これも大きな自信につながるはずです。
まさき君の指導を通じて、私も多くのことを学ぶことができました。
ほぼゼロの状態から、どこまで引き上げられるのか。
彼くらいの力の子がどこでつまづくのか。何が分からないのか。
まさき君はとても正直で、ウソ・誇張・見栄などが一切無かったため、
何を考えているのか(もしくは考えていないのか)がよく分かりました。
この経験はきっと、私の今後の実験教室の授業でも活かされることになると思います。
厳しい指導によく耐えてきました。
まさき君、合格おめでとう!!
|